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地域医療研修 in 能登

「地域研修 in 能登 2022(珠洲市総合病院)」

~令和4年11月掲載~

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「地域研修 in 能登 2021(公立宇出津総合病院)」

~令和4年5月掲載~

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「地域研修 in 能登 2021(公立穴水総合病院)」

~令和3年4月掲載~

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 「地域研修 in 能登 2021(市立輪島病院)」

~令和3年2月掲載~

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「地域医療研修 in 能登(冬)2019(珠洲市総合病院)」
~平成31年3月掲載~
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「地域医療研修 in 能登 2018(公立宇出津総合病院・珠洲市総合病院)」
~平成30年8月掲載~
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「地域研修 in 能登 2022(珠洲市総合病院)」

「珠洲は良かったよ。」 初期研修医2年目 藏田  隼也

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のと里山空港に降り立つ飛行機

 「珠洲は良かったよ。」何も能登事情を知らない私は先輩のこの一言だけを頼りに2022年9月、能登半島の先端へ向かうことになりました。羽田空港からのと里山空港までは離陸後40分程度、まさに「里山」と言うべきのどかな風景が広がっていました。とりあえず気分を高めようと石川さゆりさんの「能登半島」を聞きながら歌詞中にもある「夏から秋への」能登半島を移動しました。

珠洲では研修医最大3人+医学生1人が同時にローテーションするようで、私は国立病院機構金沢医療センターの研修医2年目と金沢大学の医学部5年生と頑張ることになりました。オリエンテーションを済ませ業務開始です。人口の51%(2020年)が65歳以上と高齢化が顕著な珠洲市において、内科の常勤の先生が医師10数年目の部長をはじめ以下レジデント3人も含めて6人は若手中心であったことは驚きでした。自治医科大学および金沢大学の石川地域枠出身の先生方が最初の1年ないし2年を奥能登で業務をされているようです。
病床数は163床であり、他院の研修医に話を聞くと数10床レベルの病院に行く事もあるようで地域研修病院としての規模は大きいようです。しかし、常勤医は内科6人、外科3人、整形外科2人、耳鼻科1人、小児科1人と13名であり、配属の内科病棟は6人+研修医で対応しているような状態でした。しかも上級医の先生方は週4/5日も外来業務をこなしながら病棟業務、救急外来当番まで担当しており多忙な毎日を過ごしておられ、地域医療の厳しい現実を目の当たりにしました。

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163床の珠洲市総合病院

研修医の業務内容は、初診外来対応、救急外来対応、病棟業務が主でした。初診や救急外来で担当した患者さんが入院するときは担当医として病棟業務を行うことになります。疾患は内科全般で消化器系から循環器系、呼吸器系、皮膚科系まで様々でした。
そんな中、教科書で調べては外来の合間を縫って上級医と相談し、処方を入れるような生活が続きました。日によっては初診外来でファーストタッチを行い、採血・画像検査を看護師さんにお願いしながら病棟で中心静脈カテーテル手技を行い、救急外来の患者さんも対応するといった非常にタフな1日もあり、ほぼ毎日が充実しやりがいを感じました。幸いにもCOVID-19が落ち着いてきていた段階であり、8月に比べて症例も豊富だったとのことです。

お話したいことは沢山ありますが、その中でも特に印象に残った4つを紹介します。1つ目は「マムシ咬傷」の症例です。蛇に咬まれたなんてさいたま市ではまず見たことがなく、講義でうっすらと聞いたことはあるものの実際の治療をみるのは初めてでした。筋破壊で採血のCKという値が著名に高いものの、心機能が悪かったため点滴も大量に投与ができず、乏尿・腎障害を起こさないギリギリのところでなんとか治療しました。実は未治療の糖尿病も見つかり、さいたま市立病院での経験を生かし様々な検査、生活指導など行う事ができ大変勉強になりました。退院された次の土日の夕方に「白米千枚田」という観光地に行った際、タイムリーなことに歩道にマムシがいて飛び上がる思いをしました。マムシには気を付けましょう。

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病院の明るい渡り廊下で

2つ目は地域医療の厳しさを実感した転院搬送です。ドクターヘリが石川県立中央病院から来ることもありましたが、安全面での運航条件が非常に厳しく、運用ができないことも多々あるそうです。私は計2回、珠洲から75分程度の所にある七尾市の恵寿総合病院、そして2時間程度の所にある金沢医科大学病院への搬送に同乗することとなりました。そのうちの1人は急性心筋梗塞の症例で、血圧や脈拍といったバイタルも不安定で昇圧剤を繋げていました。救急隊2人、看護師1人と私の4人での搬送であり、現場での判断が自分に完全に委ねられていたのです。勿論初めてで本当に緊張しました。実はさいたま市立病院でICLSのインストラクターを取得し、地域研修の直前には救急科をローテーションしていました。さいたま市立病院では今年からドクターカーの運用も開始され、貴重なことに何回も同乗させていただいておりました。ドクターカーは現場に急行し、なるべく早く患者さんに接触し初期対応を行うとともに救急車に同乗し病院へ搬送します。この経験があったので患者さんに何かあったときに救急車内でできることは心得ておりました。幸い大きな問題もなく恵寿総合病院に搬送し、病院の医師に引継ぎができた後は抜け殻のように力が抜け帰路についたのをよく覚えています。「人の命を預かる」ことの重さを肌で感じました。3つ目は離島での経験です。実は能登半島から北に50kmの日本海に小さな島があることをご存知でしょうか。舳倉島(へぐらじま)という、小一時間もあれば一周できる小さな島です。海女さんが漁期を中心に一時的に住むようないわば前線基地のような島であり、この島にある診療所の所長として輪島病院の医師が半年ごとに唯一の医療者として赴任します。まさに「ドクターコトー診療所」のようなこの島に訪問する貴重な機会をいただきました。所長の先生とコンタクトを取り、島での診療の実際など教えていただきました。血液ガス分析はかろうじてできるものの、一般採血検査は輪島病院に検体を運ぶ必要があり、酸素ボンベも有限、と限られた医療資源をフル活用する離島医療は想像を遥かに超えていました。夜中に島で発生した急性心筋梗塞の患者さんを知事の許可を得て自衛隊のヘリコプターで搬送された話は忘れられません。

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離島では白衣もいらない!(左から舳倉診療所所長の先生、私、研修医の同期)

4つ目は研修の最終日に担当することになった初診の患者さんでした。不明熱の10代女性で病歴も3週間程度と長く、嘔吐下痢から多彩な症状を呈しており鑑別に非常に苦慮しました。というのも、さいたま市立病院での外来は日中および夜間の救急外来が主で、急性の経過を辿る患者さんを対応するので、不明熱を見たことがなかったのです。教科書を片手に問診・診察事項を確認しつつ、どの検査を入れるべきか手探りで考えました。結局その日は結論が出ず採血で様々な鑑別に有用な抗体などを提出した上で研修が終了となりました。その後の経過を見ることができず残念でしたが文明の力に頼り、後にメールで採血結果から伝染性単核球症であったことを知ることができました。総合診療の難しさを肌で感じるとともに、今後内科医になる上で常に鑑別を考えたうえで問診・全身診察をおこなう事が大事だと学びました。

充実した研修生活を送ることができましたが、珠洲の自然・文化にも触れることができました。9月は偶然、奥能登地域で「キリコ祭り」が各町で開催されていました。COVID-19の影響で3年ぶりの大々的な開催となったそうです。中でも隣町の蛸島町のキリコ祭りは、国内から多くの見物客が訪れる有名な祭りのようで、新成人による狂言が目玉行事です。若い人が大勢でキリコを持ち上げ行進する姿に、夢中でシャッターを切りつづけました。

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キリコ祭りでの狂言
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たくさんのキリコが集結するクライマックスは圧巻      

 
最後になりますが珠洲市総合病院、そして能登半島の皆様、1ヵ月間本当にありがとうございました。お世話になった先生方、病棟のスタッフの皆様が良い方ばかりで、人・場所とも珠洲は居心地が良すぎました。正直、最後は帰りたくなかったです。絶対珠洲にまた戻って来ようと思います。まだまだお伝えしたいことは多々ありますが、実際に見学でお会いしたときにでもお話できればと思います。「医学」だけでなく、「医療」を沢山学ぶことができたことは地域研修で得た大きな財産です。今回の経験を胸に、今後の診療で目の前の患者さんにより良い治療ができるよう一層頑張ろうという決意が芽生えました。場所は違えどやることは同じです。実は部長の先生は専門が消化器内科であり、私も消化器内科志望なので時間があれば内視鏡を一緒にやろうと声をかけて下さったのですが、実際は毎日が多忙でなかなか伺うことができなかったのが唯一の心残りです。最後にご挨拶したとき、「同じ消化器だしまたどこかの学会で会う事ができるね」と言葉をかけて下さいました。その時までに大きく成長するのが目標の1つです。来年の後輩にも自信をもって伝えたいです。珠洲は良かったよ。

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内科部長の先生と
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お世話になった内科の先生方と外来の看護師さんと最後に
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最終日の朝、研修医同期と早起きして見た       見附島の日の出

「地域研修 in 能登 2021(公立宇出津総合病院)」

「公立宇出津総合病院での地域医療研修」 初期研修2年目 鈴木  理紗子  

 2021年11月1日から1か月間、石川県鳳珠郡能登町にある公立宇出津(うしつ)総合病院で地域研修をさせていただきました。宇出津は能登半島内浦地区の経済の中心として発達してきた漁業が盛んな町で、例年7月初旬に開催される「あばれ祭」が有名です。
 市立宇出津総合病院は病床数100床の総合病院で、能登町の高齢化率は約50%ということもあり患者さんの多くは80代、90代の方です。現役で畑仕事に勤しんでおり、一人で車やバイクを運転して病院を訪れる方も少なくありません。職員のご家族・知り合いの方がやってきて「あら〜、○○さん!」なんて会話が始まることも多く、地域に根ざした病院でした。職員の皆さんが温かく見守ってくださり、アットホームな環境で研修を行うことができました。

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公立宇出津病院


 

  


 

 
 業務としては内科の先生方のもと、初診外来、救急外来、病棟で診療を行いました。日中の外来では比較的幅広い検査が可能ですが、患者さんの状態や検査の結果によっては、専門的な治療のために近隣の病院に搬送する必要があります。実際、研修2日目にペースメーカー挿入適応となった患者さんを70キロ離れた七尾市の病院に転院搬送する機会があり、始まって早々に地域での各病院の役割について考えるきっかけとなりました。内科外来では未治療の生活習慣病に介入することも多く、内科志望の私としては実践的に勉強ができました。当直業務も経験しましたが、さいたま市立病院では夜間でも当然のように血液検査・画像検査を行えるのに対して、宇出津総合病院では医師・看護師以外のスタッフは院外で待機している状態のため、そもそも検査をするかどうか迅速に判断しなくてはなりません。普段の環境がいかに恵まれているか実感し、そして検査ありきの診療が当たり前になってはいけないと気が引き締まりました。病棟は一括りの内科で急性膵炎、脳梗塞、肺炎などと多分野にわたる疾患を扱っており、専門に関わらず幅広い疾患に対応できる“総合力”が求められていました。訪問診療や診療所での診察に同行させていただいた際には、限られた医療資源を活かして、病院へのアクセスが困難な患者さんをサポートする様子を目の当たりにしました。地域医療には様々な形がありますが、地域の方の健康・命を守るべく、その地域の医療資源や人材のもとで最善を尽くすという姿勢はどんな環境でも共通しています。医師が少ない地域での医療は負担や責任が大きいですが、患者さんや地域と密接に関わることができやりがいも大きいと感じました。

 生活面に関しては、病院で美味しくボリューム満点の食事を3食とも提供していただき普段の何倍も食生活が充実していました。宿舎は綺麗で、近くにスーパー・コンビニ・ドラッグストアが揃っていたため生活に困ることはなかったです。幸いにもコロナが落ち着いていた時期で、近所のお寿司屋さんや焼肉屋さんも訪れることができ、能登の海の幸・山の幸、食事によく合う日本酒を堪能しました。香箱ガニが解禁されたタイミングでしたが、寒ブリはあと少しという時期だったのでいつかリベンジしたいです。日本海側といえば、秋の終わりから冬にかけてあまり晴れ間がない印象でしたが、休日は概ね天気に恵まれ能登半島の美しい風景に心が癒されました。

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近所のお寿司屋さんにて
ネタが新鮮で感動的な美味しさでした

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世界農業遺産「能登の里山里海」を代表する
白米千枚田


  穏やかに時間が流れる能登で、豊かな自然や人々の温かさに触れ、のびのびと過ごすことができた1か月でした。医療の在り方について、改めて考える貴重な機会にもなりました。専門研修が始まる前にこのような経験ができて、医師としての視野が広がったと思います。この場を借りて、お世話になった宇出津総合病院や能登町の皆様に心から御礼申し上げます。

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能登の新名物 “イカキング”
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日本海に沈む夕日


              

「地域研修 in 能登 2021(公立穴水総合病院)」

「公立穴水総合病院での地域医療研修」 初期研修2年目 岩井 奈緒

 2020年11月2日からの1ヶ月間、石川県鳳珠郡穴水町にある公立穴水総合病院で地域医療研修をさせていただきました。穴水町は人口8445人、3768世帯、面積183.21平方キロメートルの能登半島中央に位置する町です。奥能登の線路の終点であり、のと里山空港から最も近いことからも奥能登の玄関口として交通の便に優れています。日本海側でありながら穴水湾の海は非常に穏やかで、まるで湖のような景色が続いている自然豊かで美しい町です。埼玉県の比較的都会の生活から、久々の自然に囲まれた生活を楽しみに能登へ向かいました。のと里山空港を出ると、秋という季節もあり木々は紅葉で彩っており、早速山々の自然を感じながら、レンタカーで穴水までのドライブを楽しみました。

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公立穴水総合病院

 
 穴水総合病院での地域医療の一ヶ月間の研修内容としては、外来(初診、再診)、救急対応、入院診療、兜(かぶと)診療所研修、訪問診療が主でした。中でも地域医療ならではの経験ができたのは、兜診療所での研修や訪問診療でした。診療所では、高血圧等の内科的疾患の外来フォローから、腰痛、膝関節痛などの整形疾患に対し鎮痛薬の注射など、より高齢化が進んだ地域で需要の高い疾患を経験することができました。割り当てられた研修をこなしながら、お昼には毎日内科の先生方で集まり、相談、勉強会を兼ねたカンファランスが開かれました。それぞれ異なったサブスペシャリティを持った先生方がそれぞれ内科的疾患を総合的に診療しており、中でも私が初めて出会った「家庭医」の専門をお持ちの先生のお話がとても印象的でした。これからの高齢化社会に対し需要の多い症候学の知識、地域医療に必要な地域とのつながりを生かした医療が、今後の高齢化社会でプライマリーケアを行う上で求められることを実感しました。
 これらを通して私が1ヶ月間で最も印象的であったことは、これまでの初期研修で行ってきた急性期病院とはまた違った「地域医療の暖かさ」です。小さい町であればあるほど、住民同士のつながりも深いことから、医療的な面のみでなくそれぞれの生活背景により沿い、課題の根本的な解決を目指して他職種がチームとなり話し合う姿、地域で支え合っている姿の暖かさに田舎の良さを感じた1ヶ月間でした。

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穏やかな穴水湾


 さて、私は1ヶ月間レンタカーを借りたので、休日は半島の海沿いをドライブし、各地のお寿司屋さんやカフェ、温泉巡りをしながら能登半島の食、自然を楽しみました。ドライブをする中で、波の激しい日本海と波一つない穴水湾の海の違いには圧倒されました。私は波の穏やかな穴水湾が好きです。穴水湾では「ボラ待ちやぐら」という、昔はボラ漁に使用されていたやぐらが現在も残っています。穴水湾の穏やかな美しさと、ボラ待ちやぐらの歴史を感じさせる風景が写ったこの1枚がお気に入りです。
 最後になりましたが、1ヶ月という短い期間ではありましたが、とても暖かく迎えてくださった穴水総合病院の皆様、穴水町の方々に御礼申し上げます。ありがとうございました。

「地域研修 in 能登 2021(市立輪島病院)」

「私の市立輪島病院研修」 初期研修2年目 加賀谷 尽

 2021年1月4日から1か月間、石川県輪島市にある市立輪島病院に地域研修に行ってきました。この1か月は私にとって、想像をはるかに超える忘れられない1か月となりました。

 まず、地域研修初めの週末から日本海側で観測史上1位の積雪を記録し、雪のため道がなくなり長靴を履いてもどこにも行くことができなくなるという経験をしました。近所の方に伺ってみても、このときの積雪は特に量が多く、屋根が潰れるのではないかという心配で一晩中眠れなかったとのことでした。輪島に来て早々にして関東では到底経験できない雪国の恐ろしさを思い知らされました。また、ちょうどこのタイミングで輪島に初の新型コロナウイルス感染者が出たため一時外来がストップになったり、同僚での会食が禁止になったりと、これはかなり色々と雲行きが怪しいのでは・・・と不安を感じるスタートとなりました。

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北陸新幹線が初めて雪で止まった
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雪の日の翌日の病院駐車場
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雪かきをするおばあちゃん


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雪道を行く転院搬送

 しかし、蓋を開けてみるとそんな心配は杞憂に終わり、研修内容はむしろ想像以上に一日一日が大変充実したものとなりました。まず、こちらでは地域柄、関東よりも定期的に病院を受診する頻度が少ないためなのか、80年間の人生で初めて受診したという方がちらほら見られ、初診で長年手つかずの大量のプロブレムが一気に判明、それぞれに一から対応するということを幾度となく経験しました。症例も非常に多彩であり、失神で受診した肺血栓塞栓症、体温8度の低体温、成人重症水痘・水痘肺 炎、癌性胸膜炎による心タンポナーデ、縦郭腫瘍による異所性高PTH血症、初発の多発性骨髄腫、喉頭気管分離術など、診療科が全て揃っていないからこそある程度の診断・治療までは自分が担当し見届けるという経験ができ、地域病院ならではのやりがいを感じられ、大変勉強になりました。また、どうしても他施設に転院搬送しなければいけない症例 もやはり多くあり、夜間に雪道を1~2時間かけて搬送したt-PAを行いながらの心原性脳塞栓症、気道確保を行いながらの扁桃周囲膿瘍・深部頚部膿瘍、後頭骨骨折・外傷性くも膜下出血、Stanford A型大動脈解離などを経験し、重症患者を一刻も早く転院搬送したいができないという、地域の病院の葛藤・苦悩を感じました。

 そして、私が個人的に地域研修を行う前と後で最も意識が変えられたことがあります。それは、「どんな地域であっても、人材さえいれば質の高い医療は行える」ということです。当初は輪島で地域医療を経験することで、色々な面での医療の限界を感じてさいたまに帰ってくるのかななどとおこがましくも思っていましたが、それは全くの誤りであり、実際には非常に優秀な先生方のもとで緻密な内科・外科的管理が行われており、私の認識はすぐに正されました。もちろん、機材の面での資源不足などはあったかもしれませんが、ネットなどを通じて医学知識のアップデートは可能であり、頭脳や情熱を持った人材さえいれば日本のどこにいても質の高い医療は行うことができるということを学ばせていただきました。人格的にも医学的にも尊敬する先生方とのたくさんの出会いがあり、今後の医師人生の中での大きな収穫を得、背筋が伸びる思いでさいたまに帰ることとなりました。

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たくさんお世話になった
市立輪島病院内科専修医の先生方
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廃校になった中学校が
診療所として使われていました


 医療に加えて輪島では欠かすことのできない観光も、大雪や新型コロナウイルス感染症に屈せず最大限に満喫させていただきました。

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 帰りの飛行機も大雪の影響で3日間欠航となったため急遽予定を早めて新幹線で帰るという、最後の最後まで他ではできない雪国ならではの貴重な経験をさせていただきました。これもすべて、一生心に残る良い思い出です。

 最後に、新型コロナウイルス感染症が蔓延する厳しい状況下にも関わらず、快く地域研修を受け入れてくださり、多くのことを学ばせてくださった市立輪島病院の関係者の皆様に深く感謝申し上げます。

「地域医療研修 in 能登(冬)2019(珠洲市総合病院)」

「珠洲市総合病院での1ヶ月(冬)」 初期研修医2年目 志村 暢紀

僕がこの世で一番嫌いなスポーツはスキーです。それは寒い時にわざわざ寒い場所に行かなくちゃいけないからです。そんな1週間以上関東を離れたことのないシティ派の僕は1ヶ月も能登にしかも冬に派遣されるのがイヤでたまりませんでした。幸い宿舎を借りられるとのことだったので、1ヶ月間家から一歩も出なくて済むように家中の荷物をスーツケースに詰め、羽田空港で荷物重量の超過料金2500円を支払って能登に向かいました。

のと里山空港に到着して思った事は、思ったほど寒くはなかったということと景色が綺麗だったということです。日本海を背後に見ながら山にも囲まれた街並は神々しさすら感じました。そして一番驚いたのは星が綺麗だったことです。関東地方ではおそらく見ることのできない星空は是非一度は見ておいた方がいいかもしれません。心配していた宿舎には先人たちが残していった雪国グッズも大量に置いてあり、むしろさいたまの僕の家の方が寒かったです。コンビニやスーパーマーケット、ホームセンターなども歩ける距離にあり、自転車に乗れない僕でも生活する上で困る事はありませんでした。また、食事も日本海で採取される魚介類はもちろん特に能登牛と日本酒が本当においしく、夜はちょっと雰囲気のあるお店でたくさん堪能することができました。居酒屋と言うものはほとんど存在しておらず、旅館⇨スナック、宅のみ⇨スナックと変化球な夜を過ごしました。また、探してみるとソバ屋や寿司屋、ラーメン店、お好み焼き屋などもたくさんあり、週末に街を探検してみるのも楽しいかもしれません。

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珠洲総合病院は能登北部の4つの救急指定病院のうちの一つで195床の中規模病院ですが、少子高齢化、過疎化の進む地域においてのその役割は大変大きくなっています。先生方はそれぞれの専門性を保ちながらも、よく見る疾患から専門外なのでは?と思われる疾患まで幅広く柔軟に対応されていました。総合診療という言葉はある種義務化しており我々も学生時代から腐るほど耳にしてきましたが、実際に臨床の場にでると高い水準でのその実践は難く、必要に迫られる地域医療こそ本当に手練れの医者のみができることなのかもしれないと思いました。また、自分が目指していることをもう一度考えさせられる機会にもなりました。『先生が将来足元を掬われるのは自分の専門分野じゃなくて、専門じゃなくても見なくちゃいけない分野だ』と言われ、自分の不勉強を痛感させられました。『孫に面倒見てもらっているみたいでうれしかった』と言われて、忙しい(という程ではないのだが・・・)研修生活で少し忘れかけていたものを思い出させられました。研修生活も終わりに差し掛かるこのタイミングで地域医療に少しでも身をおき、また一つ自分の医療に対する考えの懐が広がった気がしました。

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・・・・そして許容重量を大きく超えたスーツケースは帰りの羽田空港でキャスターがもぎ取れぶっ壊れました。雨の中動かなくなったスーツケースを引きずりながら、これはきっと神様がくれた『ありがとう』なんだなと思いました。

2019年2月
珠洲でお世話になりました全ての方々に感謝申し上げます。

「地域医療研修 in 能登 2018(公立宇出津総合病院・ 珠洲市総合病院)」

 初期研修医2年目 井上隆博・醍醐恭平

 2018年5月1日から1か月間、石川県能登町にある能登町立宇出津総合病院、珠洲市にある珠洲市総合病院で地域医療研修をさせていただきました。能登町、珠洲市はともに石川県の能登半島の北部に位置しています。能登町は人口が17,000人程度であり、珠洲市は人口が14,000人ほどとされ、ともに高齢化率が40%を超えており、人口減少・高齢化が進んでいます。能登町立宇出津総合病院と珠洲市総合病院はこのような過疎化が進む地域の医療を担う中核病院として機能しています。

 今回の地域研修では、地域医療での「総合診療」の重要性を痛感しました。医師数が少なく各診療科の専門医がいない場合があるため、内科の先生が外傷患者の創処置を行うこともあれば、外科の先生が心不全の初期対応を行うなど、本当に幅広い分野の診療が求められます。最近ではドクターGなどで有名になった総合診療医ですが、過疎化が進む地域医療では、総合診療医を育てることが喫緊の課題とされています。そうした現場にわずかな期間でも身を置くことが出来たことは大変貴重な経験になったと思います。

 さて、この地域研修中のもう一つの魅力は、休日を医療の勉強のみならず、観光にも使える点です。金沢・輪島温泉・珠洲温泉など県内の各地を巡りました。金沢では金沢城や兼六園のほかに、21世紀美術館や武家屋敷など名所を堪能しました。観光スポットがコンパクトにまとまっていて、週末だけでも満喫できます。また、石川県は温泉地としても有名で、珠洲や輪島の温泉巡りもしました。日頃の行いが良かったのか、週末はほぼ晴天だったこともあり、道中は海岸線に沿ってドライブしました。食事も全て最高でした。海が近いこともあり、にぎり寿司やちらし寿司など新鮮な魚介が有名ですが、能登牛や能登豚なども有名で能登牛をあぶってご飯に乗せた能登丼も名物とされています。また、宗玄や大慶といった地酒もあり、関東では味わえないような贅沢な食事を満喫しました。

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宇出津~珠洲~輪島 海岸線をドライブしました。左が道中の車内より。道の駅「千枚田ポケットパーク」での抹茶のソフトクリームもおいしかったです。

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石川県の最北端、禄剛崎にて。日本の中心?のようで、多くの観光客が訪れていました。

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遊具を見つけるや否や、ついつい楽しくなって、幼少のころに戻ってしまう25歳…

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輪島で立ち寄った総持寺祖院にて、あいにく山門は改修中でしたが、境内は多くの観光客が訪れていました。左はホームページより山門の様子。

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珠洲の見附島。島の近くの旅館に宿泊しました。右側が旅館から撮った夜の見附島。なかなかきれいにライトアップされています。

 1ヶ月間という短い期間ではありましたが、大変多くのことを学ばせて頂きました。今回の地域研修で得た経験を将来の自分の医療に活かしていきたいと思います。このような機会を与えてくださった両病院の先生方や事務の方々には本当に感謝申し上げます。

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